ずっと伝えたかった。「遷延性意識障がい」を生きて 2615号(2015/09/07)
その3(終) 障がいがあっても、社会の一員として「普通の暮らし」をさせたい
全国遷延性意識障害者・ 家族の会北陸ブロック代表 中島依子
私たちが基樹への働きかけの中で一番目指したのは、「一緒に食べたり旅行を楽しみたい」ということでした。基樹は、もともと社会のことをとても前向きにとらえる子で、阪神大震災の被災地にもボランティアで出かけていました。
ですから、たとえ障がいを持ってしまっても、若いんだから何とか手を尽くし社会の一員として生きられるようにしてあげたいし、普通の暮らしができるようにしてあげたい、健康で元気に生きてほしい、そう思ったのです。
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「普通の暮らしを目指したい」と思う理由は、もう一つありました。
基樹よりも2年早く遷延性意識障がいになられた子どもさんの親御さんがおっしゃいました。
「私はこの子の看病のために、もう4年間も、葬式も結婚式もまったく出席していないんです」
衝撃的な一言でした。「介護というのはやっぱりそれほど大変なことなんだ」と思い知らされました。
でも私は、「家族なら当然出席すべき冠婚葬祭に遠慮するなんて基樹が喜ぶだろうか? いや、たぶんすごく嫌がるだろう」と思いました。
ですから、「どうしても行かないといけない場合には、何とか行けるようにしよう」と決意しました。
「一緒に旅行を楽しみたい」という目標は、今実現しつつあります。
今日も富山から車に乗って神戸に行き、そこからフェリーで大分に着き、ここ福岡までやって来ました。
埼玉県川越市での学会に行ったとき、途中で使っている吸たん器が動かなくなったことがありました。
「どうしよう」と困ったのですが、埼玉の友だちが持っているかもしれないと思い、電話をしました。
すると、ありがたいことにわざわざ持ってきてもらえて、後日きれいに洗ってお返ししました。
そんなふうにいろんな人に助けられながら、ハラハラ、ドキドキの旅行を楽しんでおります。
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一番大事なのは、筆談や指談ではなく、「相手が分かっているということを分かること」です。
「本人が分かっている」と分かれば、おのずと接し方は変わります。
富山の方で、ご主人が倒れられてもう10年になる奥さんがいらっしゃいます。
その方は、ご主人が倒れられてすぐ「この人、全部分かっていますから」と言って、本当に意識があるような応対をしておられました。
いつ遊びに行っても、ご主人と楽しくやっておられて、そのうちご主人も声を出せるようになって、「あ、あ」と声を出しておられます。
その方たちを見ながら、「筆談ができない」「コミュニケーションがうまく取れない」と悩むのではなく、まずはお互いに楽しい人生を送るという前提に立つことが大事だと思いました。
ちょっとでも分かってあげようとすること、その気持ちが大事なんですね。
基樹は、11年も前から意識がしっかりとあったのです。でも、私たちは勝手にそれを「意識障がいだから」と思い込んで、ずっと分かってやれなかったのです。
そんなつらい思いをさせてしまったことを心からわびたい気持ちで、私は今できることに取り組んでいきたいと思っています。
(「遷延性意識障害者・家族の会九州『つくし』」が主催した発足記念講演会より~終わり)