ようこそ漢字の世界へ 2648号(2016/05/23)
その3 「はしご高」に見られる異体字のパターン
九州女子大学講師 山下真里
漢字には、「島」と「嶋」のように、読みや意味は同じでも、字の形が違っている異体字があります。
このような異体字の中で、私たちがよく目にするものとして「髙」という漢字があります。「はしご高」と呼ばれることもありますね。特に苗字などでこの漢字が多く使われています。
この「髙」は、「高」の「亠(なべぶた)」と「冂(けいがまえ)」の間に挟まれた「口」の両端の縦線を思い切って上下の「亠」と「冂」にくっつけてできた字体です。
二つの字体の画数を比べると、「高」は10画、「髙」は11画となり、「髙」のほうが画数が多いのですが、「髙」のほうが書きやすいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
それは実際にこれらの漢字を書いてみると実感できると思います。
「髙」だと「口」の部分が「高」の「亠」と「冂」にくっつかないように気を遣わなくて済みます。また、「高」という字を書くときは、縦、横、縦、横、縦、横、縦…と縦横の動きが連続するのに対して、「髙」の場合はそういった連続になりません。このようなことが書きやすさの理由だと思います。
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さて、この「髙」のように上下が挟まれた「口」の両端を上下の横線にくっつけて書く書き方は、実は「髙」に限ったことではありません。
写真は、仙台市にある「いわま亭」という料亭の看板です。この看板の「亭」は「𠅘」という字体を使っています。これは、「はしご高」と同じタイプの異体字です。
「はしご高」と同じように、「亭」の「亠」と「冖(わかんむり)」の間に挟まれた「口」の両端の縦線を上下の「亠」と「冖」にくっつけているのです。
このほかに「囬(かい)」という字体もこれらと同じタイプの異体字です。
「「囬」は「面」という漢字によく似ていますが、「回」の異体字です。「髙」や「𠅘」と同じように、上下が挟まれた「口」の両端の縦線が上下の横線にくっついています。
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このように、異体字の中には同じパターンのものがあるのです。
たとえば、「摂」「塁」などもそうです。漢字内に同じ部分があると、四つの点に置き換えることがあります。
「摂」という字体は、「攝」という異体字の「つくり」の部分にある「耳」三つのうち、下の二つを四つの点で置き換えてできたものです。また、「塁」は「壘」という異体字にある「田」三つのうち、下の二つを四つの点で置き換えています。
上下に挟まれた「口」をくっつける「はしご高」や、漢字内の同じ部分を四つの点に置き換える「摂」など、異体字にはいくつかのパターンがあるのです。
(北九州市在住)