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無料公開!!【転載・過去・未来】その116

その116 通い合う心の美しさ~『サザエさん』一家に学んだこと~
声優(『サザエさん』のマスオさん役) 増岡弘さん

 アニメ『それいけ! アンパンマン』の原作者・やなせたかし先生(故人)は、詩人としてもご活躍でした。『手のひらを太陽に』という歌は、やなせ先生の作品です。

 やなせ先生は、一般の方々から詩を募集されて、それを詩集にして出版されていました。その中にある主婦が書いた「おたずね」という詩があります。

 「どこかにうれしいことを預かってくれる銀行はありませんか? 悲しいときにおろしたいから…」

 これを読んだ時、ドキッとしました。でも、悲しいことも預かってくれる銀行があったらいいですよね。もっとも、利子が付いて返ってくるのは嫌ですけど…。

 ただ、心の中にはそんな「銀行」をつくれます。「人生の楽しいこと悲しいことを、しっかりと心の銀行に取っておかなければ」と、私も思いました。


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 女優の森光子さん(故人)も、そんな「銀行」を心に持っていらっしゃる方でした。

 いつも笑顔で「おはよーございまーす」とスタッフ一人ひとりに優しく声を掛けてくださいます。でも仕事になると変わります。

 たとえば、悲しい場面で森さんがすっと横を向き涙を流すシーンがありました。とてもきれいな涙だと思いました。

 驚いたのは、何度やってもそのきれいな涙を流せるんです。すごい方だなぁと思いました。

 きっとそれまでの人生の中で、悲しいことをたくさん経験してこられたのでしょう。

 そして、いつもはその悲しいことをしっかりと心の奥深くにしまっておられたのでしょう。だから、いつもあんなにすてきな笑顔でいられたのだと思います。

 そして仕事になると、その閉じられていた扉をすーっと開け、「本物の涙」をこぼされる。本当に素晴らしい大先輩でした。


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 「通い合う心」という言葉があります。心というのは行ったり来たりする状況が一番美しいと思います。でも心って見えませんから、相手に返すのをつい忘れてしまいます。

 見えないものだからこそ、相手がキャッチしやすい所に返してあげたり、相手が投げたらちゃんとキャッチできる所にいてあげてほしい。それが心のやりとりの基本だと私は思っています。

 アニメ『サザエさん』の一家は、まさにそんな「心のキャッチボール」を大切にする家族です。

 『サザエさん』の録音は、毎週木曜日と決まっていました。お正月と5月の連休とお盆の時に木曜日が入ると、お休みになりました。

 1秒間に24枚もセル画といわれる絵を使いますから、30分のアニメーションを作るのに2か月半もかかるんです。

 あの漫画は、開始当時はごく平凡な日本人の家族の日常を描いたものでした。ところが現在は、そんな家族の風景は日本からもう失われてしまっているんじゃないか、と私は残念に思っているのです。

 皆さんも、『サザエさん』の一家を見て、「心のキャッチボール」を大切にする気持ちをぜひ思い出してください。


(1998年8月3日、10日号より)