フィギュアスケートの未来に〝古典〟が誕生する?
先月開催された北京冬季五輪。注目されたフィギュアスケートで、日本はメダルを4個獲得しました。これは前回より倍の数です。五輪最終日に行われたエキシビションでは、出演した選手たちが実にさまざまなプログラムを披露しました。その模様はテレビで生中継され、楽しんで見た人も多いと思います。
2月7日号に掲載された町田樹さんの著書『アーティスティックスポーツ研究序説』では、フィギュアスケートを「評価対象となる身体運動の中に、音楽に動機付けられた表現行為が内在するスポーツ」と定義しています。
フィギュアスケートの特徴は、採点に「演技構成点」という芸術点があることです。
そのためフィギュアスケートは、スポーツとして「競技すること」だけでなく、芸術として「表現すること」も求められるスポーツであると言えます。
前掲書で町田さんは、淡水と海水が混ざり合う「汽水域」という言葉を使って、フィギュアスケートを「スポーツとアートの汽水域に位置付けられる」と述べています。
フィギュアスケートの世界では、「傑作」と呼ばれるプログラムでも、それを実演する選手が引退すると、世に出ることがなくなってしまうそうです。
「それはあまりにもったいない」と思っていた町田さんが、良い作品(プログラム)を受け継いでいこうと始めたのが「継承プロジェクト」です。
フィギュア界初の試みであるこのプロジェクトは、手始めに町田さん自身が振付を担当し、実演した作品を、平昌五輪のフィギュアスケート代表・田中刑事さんが継承しています。
「例えば舞台芸術のクラシック・バレエは、『白鳥の湖』など、19世紀に誕生して今でも踊り継がれている作品があります。それと同じように、フィギュアも10年20年先に続いていくような作品があってもいい」と町田さん。
また、町田さんは「フィギュアスケートの演技はスポーツである一方で、アートでもあるのだから、著作物になり得るのではないか」ということを研究課題として、大学院で研究してきました。
そして2019年に「フィギュアスケートの演技は著作物たり得る」という研究の成果を論文で発表しました。これにより、継承されていく作品を、著作物として法的に保護をすることが理論上可能になりました。
今回の五輪で活躍した選手のプログラムが受け継がれ、それがやがて「クラシック・バレエ」ならぬ「クラシック・フィギュア」と呼ばれる日が来るかもしれませんね。
編集部 鬼塚恵介