キメラ(合体)家族の軌跡 2615号(2015/09/07)
その7 両面使える名札
キメラの母 小糸一子
平成8年6月のある日のことでした。台所にいたら、窓の下にある道路から、小学校低学年らしき数人の子どもたちの声が聞こえてきました。
耳を澄ませたら「小糸さんは、ひろわれっ子だって」と聞こえてきたのです。
私は窓を開けて言いました。
「ねぇ、今、何て言った?」
子どもたちの中の一人が、「だってひろわれたって聞いたもん」
そう言うと、4、5人の子どもはぱーっと走って行ってしまいました。
胸がキューンと痛みました。
母親になって15年、何度も受けてきたパンチですが、日頃すっかり忘れている「里親」である現実を突きつけられるこの瞬間ばかりは、胸が締め付けられます。
しばらくして遊びから帰ってきた3番目の娘に聞きました。
「今ね、こういうことを言っている子たちがいたけど、そんな話を友だちにした?」
「してないよ」
「ま、いいか。生んでくれたお母さんと、一緒に暮らしているお母さんと、2人のお母さんがいることは本当だもんね」
「うん」
「人間はね、みんなどの人も天の神さまがいのちをくださるんだよ。お父さんとお母さんの体を通して生まれてくるんだけど、いのちは天の神さまからいただいて生まれてくるんだよ。あんたは世界に一つしかない大切ないのちなんだからね」と話しました。
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平成9年7月に小学3年生の次男の授業参観と懇談会がありました。
翌日、息子が帰ってくるなり、私のところに来て、「お母さん、あのね、友だちがボクのところに来てね、ボクのこと、『もらいものか?』って言ったよ」
「えっ、もらいものだって? それであんたは何て答えたの?」
「『そうだよ』って言った」
「うん、それでいいのよ」
私は息子の言葉に心の中で拍手を贈りました。
そして、学校の名札をはずさせると、裏に子どもの本名を書き込みました。
「今の『小糸』も、前の苗字も両方大切だよ。これからはどっちの名札を使ってもいいからね。両面使える名札だよ」と渡したのです。
4年生の次女にも同じように両面書き込んだ名札を渡しました。
翌日、担任の先生に名札の事情を話しに行くと、「みんなの前で話しましょうか」と言われました。
私は、「いいえ、本人が自分で答えますのでこのままでいいです」と言いました。
しばらく2人は名札を表にしたり、裏にしたりして遊んでいたようですが、やがて表の「小糸」だけにするようになりました。
養子縁組をしていない子どもたちは、就園や就学のときにどっちの苗字を使うかを本人に選ばせていますが、今まではみんな「小糸にする」と言うので私たちと同じ名前を使っていました。
もちろん学校側の教育的配慮ということもありますが、子どもの安全面からすると、そのほうが安心できます。
(福岡市在住)