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かけがえのない出会いの時間 2648号(2016/05/23)
その2 「賞は差し上げるものだ」上司に教えてもらった考え方を 司馬遼太郎先生の姿に見た

㈱文藝春秋 前社長 平尾隆弘
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 芥川・直木賞の係になったとき、上司に「賞は『くれてやる』んじゃなく『差し上げる』ものだよ。受賞者にお知らせするときは、くれぐれも『お受けいただきますか』と聞きなさい」と言われました。

 選考委員会に臨み、直木賞に藤本義一さんの『鬼の詩』という作品が決まりました。大阪の藤本さんに電話して、「日本文学振興会の平尾と申します」と名乗りました。

 実はこれだけで、候補者は自分が受賞したと分かるんです。日本文学振興会は受賞者にだけ連絡をするからです。

 私が「ただいま、藤本義一さんの受賞が決定いたしました」と言ったら「ありがとうございます」と答えられました。

 そこまではいいんですが、何分初めてで「お受けいただきますか」と聞き忘れてしまったのです。

 藤本さんが「明日上京して文春に伺います」と言うのをさえぎって、強い口調で「あの、お受けいただきますか」と聞いてしまいました。

 翌日、来社された藤本さんに「あんた、受賞式の話してるのに『お受けいただきますか』はないやろ。ビックリして『いや、要りません』って言いたくなったわ」と言われました。

 それ以来、さりげなく「お受けいただきますか」と伺うようになりました。

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 偉いと思ったのは司馬遼太郎さんです。

 賞の選考後の記者発表では、選考委員の代表者が選考経過を説明するのですが、あるとき司馬さんが席につかれました。

 選考の概要を話された後、記者が「下馬評で有力だった〇○は、なぜ受賞しなかったのですか」と聞きました。

 たいていの方は「こういう意見があって、惜しいけど今回は受賞にいたらなかった」と答えます。でも司馬さんは違いました。

 ちょっと困った表情をされて、「あのな、本人がどうしても候補にしてくれ言うたわけやないやろ。勝手にこっちが候補になってもらって、それで、どこがアカンと言うのは失礼やろ。そやからその質問は勘弁してな」と答えられたんです。

 そんな先生はいなかったので、強く心に残りました。

 後年、司馬さんにお会いしたとき、「あの直木賞の記者会見での先生のお答えに感動しました」と言ったら、「あぁ、そうかいな」という感じで、司馬さんにとってはどうということはなかったんだと思いました。

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 あるとき芥川賞の選考で、「二作受賞」か「受賞作なし」かで議論したことがありました。そのとき、当時の文春の社長が、恐る恐る「二作受賞というわけにはいかないでしょうか」と発言しました。

 すると、選考委員の永井龍男先生が大声で、「君は黙ってろ!」とお怒りになったんです。

 「私たちは文藝春秋のために選考しているんじゃない。日本文学のためにやっているんです」と言われて、その後がもっと怖かったんです。

 「君がそういう余計なことを言うなら今回は受賞作はなしにします」と言われたのです。社長は謝っていましたが、結局受賞作なしになりました。

 賞を決めるとき、「主催である文藝春秋の意向が介在しているのでは」とよくいわれますが、かくのごとき経緯もあり、文春が選考経過に口出しすることは一切ありません。

(大阪府立茨木高校創立120周年総会の記念講演より/塩崎計吉・関西特派員取材)

※司馬遼太郎さんの「遼」という字は本来しんにょうの点が二つの漢字ですが、都合により、以上の文章では「遼」で表記させていただきました。
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