思うは招く 2589号(2015/02/16)
その2 責任の向こう側に本当の仲間がいる 本当の仲間が欲しければ、自分の責任を受け止めよう
植松電機株式会社専務取締役/㈱カムイスペースワークス代表取締役 植松努
僕が本を好きになったきっかけは祖母でした。祖母は北海道の北にある樺太(からふと)という島で、戦前から自動車の会社をやっていたそうです。
その頃はまだ車の免許を持っている人がパイロットの数より少なかった時代でした。
1945年の夏、突然ソビエト軍が樺太に侵攻してきます。街にも戦車がやってきて、たくさんの人が機関銃で撃たれ、抵抗もできずに殺されました。
祖母はなんとか逃げのびました。しかし、お金の価値が変わり、自分がそれまで貯金していたお金がすべて紙くずになったことを知ったそうです。
その経験から、祖母は小さかった僕にこう教えてくれました。
「お金は一晩で価値が変わるよ。だから、お金があったら貯金なんかするんじゃない。本を買いなさい。頭に入れなさい。そこから新しいことを生み出すんだよ」
お金を本に変えれば自分の知恵や経験として溜め続けることができると、祖母は教えてくれたのです。
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そんな祖母のおかげで僕は本屋によく通う子どもになりました。
そして、小学3年生のときに、運命の本に出会います。
それが、『よく飛ぶ紙飛行機集』という本でした。この本には、折り紙ではなく、はさみで切って作るような飛行機の作り方がいっぱい載っていました。
僕の作る紙飛行機はとてつもなくよく飛びました。みんながそれを褒めてくれました。何度も作るうちに、本に書かれていることがほとんど頭に入り、紙飛行機の設計ができるまでになりました。
気がつけば、この頃の経験が今の飛行機やロケットを作る仕事に生きています。模型飛行機も、実際の飛行機も空を飛ぶ理論はまったく一緒だったのです。
僕は一生懸命自分の好きなことを追いかけた末、今ではロケットを造る会社を経営させてもらっています。
そして、自分たちが造ったロケットを年に何度か打ち上げています。
ロケットが無事に飛んで行くことは、泣くほど嬉しいです。なぜなら、打ち上げは失敗することもあるからです。
もしかしたら、自分1人の失敗のせいで他の仲間が頑張ったことが水の泡になるかもしれません。打ち上げの前は、あまりの責任の重さに苦しくなります。
ロケットが無事に飛ぶとホッとします。次に嬉しさが込み上げてきて、仲間への感謝が湧いてくるんです。
「俺のおかげでうまくいった」なんて少しも思えないんです。決して1人で造ることはできませんから。だから、お互いに感謝することができるんです。
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実は僕はずっと1人が好きでした。1人だと人に迷惑をかけないで済みますし、人から迷惑をかけられないで済みます。人と関わるのは正直、面倒臭いです。だから僕はずっと1人で何でもやってきました。
でも1人でできることには限りがあります。そして、仲間がいないとできないことがあります。それにより面倒臭い人間関係も生まれます。でも、1人ではできないロケット造りを通して、大事なことを知ったんです。
それは、「責任の向こう側に本当の仲間がいる」ということです。本当の仲間や親友が欲しかったら、責任から逃げちゃいけないんだと思います。
人は、勇気を出して責任を受け止めたときに、素晴らしい仲間と深い絆で繋がることができるのだと思います。
(㈱こんの、㈱アイクリーン共催の講演会より/鈴木龍男特派員取材・前号1面の続編です~文責編集部