リヤカーに志を乗せて 2589号(2015/02/16)
その6 「命懸けで売ります!」必死に想いを語った最後の5時間
㈱立志出版社 代表取締役 田中克成
出版業界から足を洗おうと思っていた頃に出会った高取宗茂(たかとり・むねしげ)さんに触発され、僕は何としても高取さんの著書を出したいと思いました。僕はすぐにOKをもらえると思っていたんですが、「なんで俺が本を書かんといかんとか!」と、ものすごい剣幕で怒鳴られて、すぐに引き下がって帰ってきたんです。
でも、帰る道すがら後悔する自分がいました。今、この瞬間に死んだとしたら僕は自分の人生に納得できないと思いました。
それから3か月間、あの手この手でお願いしましたが、いつも「本は書かん!」と言われ続けました。
ある日、これが最後だと思って、「久しぶりに一緒に飲みませんか?」と高取さんに電話しました。
高取さんは、「おう、飲もうや」と言ってくれたので、思い切って「5時間ください」と伝えました。
「5時間? お前もしつこいのう。本は書かんと言いよろうが!」と怒鳴られたのですが、「書く、書かないはどうでもいいんで、僕に本のことで5時間ください!」と押し切ったんです。
高取さんは渋々了解してくれて、僕は高取さんのお店に行きました。
高取さんに「書く」と言ってもらえるまで絶対に帰らないと決めていた僕は、必死になって5時間いろんな話をしました。とにかく必死さだけは伝わったと思うんです(笑)
最後は、高取さんが「わかった、書くよ。でもな、俺は俺自身のためには一文字も書かんぞ。俺はお前が志す出版業界の礎(いしずえ)となるために書く。今までのすべての過去を背負って命懸けで書く。俺が命懸けで書く本を、お前は命懸けで売れるか?」と言ってくれたのです。
僕は、「命懸けで売ります!」と答え、何とか承諾をいただきました。
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高取さんはその日から、2週間で原稿を仕上げてきてくれました。
タイトルは、『道に迷う若者へ』。
この本は、高取さんにとって実在するたった1人の誰かに宛てた「手紙」です。本来、本とはそういうものだということを高取さんの文章から気付かせてもらいました。
歴史に残る名著も、誰かに向けた「手紙」だったのです。誰かに自分が学んできたことを伝えたい。読んだ人を救いたい。そういう「手紙」だからこそ、著者の想いが行間に溢れているんです。
書き手の愛情や伝え残したいという強い想いがその行間に念写される、それこそが活きる字、「活字」だと思います。
だから、高取さんの原稿を読んだとき、本当に100年後、300年後に残したい本だと思いました。
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高取さんに書いていただいた原稿を出版してもらおうと、僕はいろいろな出版社を回りました。
しかし、出版社の反応は厳しいものでした。
「内容が濃すぎるから、今の時代には売れないよ」とか「道に迷っている若者が迷わなくなることが一発で分かるようなタイトルにしてくれ」とか言われました。
でも、この本は「迷え! もっと真剣に迷え!」という本なんです。
「こんなもの絶対売れないよ!」と原稿を投げられた出版社を最後に、「既存の出版社には頼らない。自分で出版社を立ち上げて自分で売ろう」と覚悟を決めました。
そして、たった1冊の本のために、僕は「立志出版社」を立ち上げたのです。
(ミヤザキ村Coming(コーミン)館主催の講演会より)