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ゴーシ先生の婚学・自立学 2550号(2014/04/21)
その1 一瞬一瞬の出会いが人生を変えることがある 結婚も出産もまさにそれである

九州大学大学院助教/作家 佐藤剛史
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 私は今、九州大学で教員をしながら本を書いています。テレビとかラジオにも出させていただき、福岡の志摩(糸島市)にある海鮮丼屋のオーナーもやっています。自分の人生を心から楽しんでいるし、いい人生だと私自身思っています。

 でも、ずっと成功続きの人生だったかというとそうではありません。まず高校3年生の時、大学受験に失敗し、行きたい大学に行けませんでした。

 大学時代には教員免許を取りましたが、教員採用試験に大学4年生の時と大学院2年生の時と、2回受けて2回とも落ちました。これからの人生どうなるんだろうと、すごく悩んだ時期がありました。 

 周りの友だちは働き始めていたり、中には自分の親に仕送りをしているような友だちもいました。

 一方で、私は24歳にして大学院生で、九州大学の博士課程に進学することになりました。九州大学の大学院生の博士課程と聞けばなんか格好いいけど、実際は親から仕送りをもらって学費を払っている身分です。この先、就職できるかどうかわからない中で日々を送っていました。

 大学では教育学部で勉強していたのですが、大学院はいきなり農学部の博士課程へ進みました。

 そのため、なかなか授業について行けませんでした。授業中に、「それどういう意味ですか?」と質問したら、「何そんなバカなことを聞いているの?」という目で見られているような気がしていました。

 そのうち、不登校気味になり、またも自分の人生に悩んでしまいました。

 お金は使う一方で、自分で働いて稼ぐこともせずに社会の役に立っていない。自分なんかこの世からいなくなったほうがいいんじゃないか。そのほうがうちのおふくろだって仕送りしなくて済むし、先生だって面倒見なくて済む。なんでこの世に生まれたんだろう。自分が果たすべき役割なんてあるのだろうかと、ひたすら考えていました。   

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 そんな時期を乗り越え、九州大学の教員になることができてしばらく経った34歳のときです。内田産婦人科医院の助産師、内田美智子先生の講演会があると聞いて、嫁さんと一緒に出掛けました。

 内田先生は、産婦人科の病院で出会ったいろんな妊婦さんの物語を語ってくれました。僕は衝撃を受けました。2時間の講演で涙が溢れて止まりませんでした。

 帰りの車の中で、嫁さんと「すごい講演会だったね」などと話しながら運転していて、ふとこんなことを思ったんです。

 内田先生の講演は本当に素晴らしい。2時間の講演で私が4回も大号泣するぐらいの講演だった。ただ、講演というスタイルだと、いくら内田先生がステキなメッセージを伝えたとしても、その時間と空間を共有している人たちにしかメッセージを届けることができない。

 講演を聞いた人がいろんな人に「内田美智子先生の講演、素晴らしかったよ」と言っても、たぶんその感動って誰かに伝える時には100分の1ぐらいになるんじゃないか。でも、内田先生の話を本にすれば、時間と空間を越えて先生のメッセージを多くの人たちに届けることができるんじゃないかと思い付いたんです。

 そして、地球上に何十億人の人はいるけれども、今この瞬間に内田先生のメッセージを本にしたいと考えているのは自分しかいないと確信したんです。

 そりゃあ有名な編集者は日本にはいっぱいいます。だけど、そんな人たちでさえ内田先生のメッセージを本にしたいと思っていない。この瞬間に内田先生のメッセージを本にしたいと思っているのは世界中でたった1人、自分だけ。これが自分のやるべきことであり、使命だと思えたんですね。

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 それで、家に着いてすぐ内田先生にメールを送りました。

 「今日の講演の内容を本にしましょう。内田先生は書かなくていいです。僕がインタビューして、僕が先生のメッセージを全部原稿にします。必要な分は全部資料をください。内田産婦人科にも取材に行きますし、先生の講演会があればどこにでも飛んでいきます。ぜひ一緒に本を出しましょう」と。

 そしたら内田先生から、「よろしくお願いします」という返事をもらい、その日の夜から本を書き始めました。

 3か月後には原稿ができ上がりました。いい本だという確信があったので、飛び込みで出版社に持ち込み、編集者に読んでもらいました。

 そしてその4か月後、『ここ』(西日本新聞社)という本ができたのです。こうして34歳で初めて本を出版したのでした。

 この本が世に出たおかげで私の人生は大きく変わりました。

 なによりも内田先生に出会わなければこの本はできなかった。内田先生との出会いが私の人生を変えてくれたんです。出会いってすごいと思いました。

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 一瞬一瞬の出会いが、皆さんの人生を変えるかもしれません。例えば、結婚や出産も、私たちの人生を大きく変える出会いだと言えます。 

 私には今2人の子どもがいます。親になってわかります。子育てって本当に大変です。でも、かわいくてしょうがないから大変な子育てをやっていけるんだなと思っています。そして、自分も両親にこうやって育てられてきたんだなぁと痛感させられています。

 自分で食べられない。お風呂に入れない。一人で寝ることもできない。親が自分を育てるために割いてくれた時間とエネルギーは本当にすごい。簡単には親に恩返しなんかできないなと思います。

 でも何よりも、「生まれてきてよかった。人生めちゃくちゃ楽しい。生んでくれてありがとう。お父さんとお母さんの子でよかった」と言えることが最大の親孝行ではないかなと思うのです。

 自分の子どもたちが大人になったときにそう言ってくれたらきっとめちゃくちゃ嬉しいです。育ててよかったと心から思えます。だからこそ、私は親父とおふくろの子として、自分の人生を輝かせたいと思っています。

 日々の出会いを大切にして、一瞬一瞬を一生懸命生きていく、これが私が生まれた大切な役割だと思うのです。

 (昨年、熊本県で行われた「子育てと女性研究会」主催による「婚学+自立学」講演会より)


【さとう・ごうし】1973年、大分県生まれ。農学博士。現在、九州大学大学院農学研究院助教として勤務。「婚学」や「人生学」などのユニークな講義は学生たちに人気を博し、受講生は毎回定員を超える。一方で、作家として精力的な出版活動を行い、今までに13冊の本を出版。また、全国各地で講演活動も行っている。主な著書『すごい弁当力!』(五月書房)、『大学では教えてくれない大学生のための22の大切なコト』(西日本新聞ブックレット)、『自炊男子』(現代書林)、『結婚できる「婚学」教室』(集英社)など多数。
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