幸せを築く経営 2550号(2014/04/21)
その2 どんな思いで家を建てているのか 職人さんのパンフやDVDを作ってお客様や家族に届けてみたら…
びわこホーム株式会社 代表取締役 上田裕康
この社内の雰囲気の悪さ、ぎくしゃくした人間関係のすべての元凶は、会社を動かす「エンジン」だと思い込んできた歩合制にある、という結論にたどり着きました。私はこの不動産業界に根強く残る歩合制に何の疑問も抱かず、自社でも適用していました。その仕組みは大きな売り上げをたたき出す優秀な営業担当者を生み出します。
しかし、その半面、個人プレーが優先され、顧客本位の姿勢やチームワークが育ちにくい環境だったのです。歩合制の下では、顧客は「自分の収入を増やすツール」であり、同僚は仲間ではなくライバルだったからです。
顧客を取られないように情報や販売ノウハウなどを共有することはありません。先輩が後輩を育てる土壌も生まれません。ギスギスした職場の空気は、離職率の高止まりにもつながっていたのです。
さらに歩合制が適用されない部門からは嫉妬も生まれていました。
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びわこホームの経営ビジョンは、「企業は人なり。人の成長なくして、企業の成長なし。人材育成なくして、企業の永続なし」です。
私は自分で作ったビジョンを全く守れていなかったと感じました。そこで、思い切って歩合制を撤廃し、新しい人事制度を構築しました。
すると、たちまち会社の売り上げの半分を稼いでいた成績上位4人の営業担当者が辞めていきました。
しかし、社内に変化が現れてきたのです。ライバルだった同僚が仲間となった結果、とても雰囲気が良くなり、ノウハウや情報を教え合う光景も見られるようになりました。部門同士の連携も活発になりました。お客様が会社に来られたら社員全員でもてなす明るい職場になり、業績も少しずつ回復に向かい始めていきました。
お客様の笑顔が見たい、少しでも喜んでほしいと思ってくれる社員さんのおかげで素晴らしいチームになっていくのを感じました。
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たくさんのアイデアが飛び交うようにもなりました。その一つに、職人さんのパンフレットを作ろうというものがありました。普段、大工さん、左官屋さん、クロス屋さんなどの職人さんはお客様と接点がありません。しかし、家を建てるのはやはり職人さんです。彼らのことをもっとお客様に知っていただきたいという思いから、現場監督が出してくれたアイデアでした。
そして、DVDも作りました。職人さん一人ひとりが現場で叩いて、削って、塗っている作業風景を撮影しました。
「今回、岡本様の担当の大工さんは山崎親方です」と、お客様にパンフレットやDVDを見ていただきながら、どんな思いで家を建てているのか、職人さんの姿、想いを紹介したのです。すぐお客様から嬉しい反響がありました。
私は、そのDVDを職人さんのご自宅に送ったらどうかなぁと考え、手紙を添えて送りました。奥さんや子どもさんに喜んでもらえるんじゃないかと思ったのです。
そしたら、職人さんたちの奥さんから電話やお手紙をいただきました。ある奥さんは電話で涙を流しながら、「上田さん、ありがとう。私も子どももお父さんがあんなに一生懸命頑張っている姿を知りませんでした。家に帰ればビールを飲んで横になって寝るだけ。でも、現場ではとてもかっこよかったんですね」と話しておられました。職人さんのやる気はもちろん上がりました。
こんなふうに、社員さん自らがよりよい会社にしていこう、すべての人に喜んでもらおうと動いてくれる、明るく前向きな会社に変わっていくのを感じました。
(昨年、延岡市で行われた日創研延岡経営研究会での講演より/前号1面の続編です)