【朝礼】中国進出の話
数年前、日本の大手スーパーが中国に進出したときの話を聞いた。1990年代後半の話である。社会主義のお国柄、サービスという概念がなかった。そこに「お客様は神様です」という日本式のサービス産業が入っていく。お店をつくって、商品を並べて、「いらっしゃいませ」というわけにはいかなかった。
開店前、雇用した現地従業員1000人の研修会で、「私に続いて『歓迎光臨』(ほぁんいんぐぁんりん=いらっしゃいませ)と唱和しましょう」と指導するものの、誰も声を出さない。中国の人たちは「なぜそんなことを言わないといけないのか」、理解できなかった。結局、200人が辞めていった。
店を何とかオープンした後も、商品を盗む従業員がいたり、不良品ばかり卸してくる業者がいたり、大変なことは山のようにあった。 それでも七転八倒の末、4年後には87億円を売り上げ、大成功を収め、今日に至っている。
二つのエピソードが心に引っ掛かった。 一つは、中国人の幹部スタッフから「中国人は漢方の考え方を持っており、体を冷やさないために冷たいものは食べません。ビールも冷たいビールは飲みません」と言われた。
会社側は「現地の常識にとらわれるな」と、冬の日にかき氷とアイスクリームの特売をやった。これが売れに売れた。
もう一つは、ある年の大晦日の年末セールの話。中国人スタッフが言った。
「中国人は大晦日の夜を家族で過ごすのでデパートは6時、スーパーは7時で閉店します」と話した。しかし、やはり会社側は「誰もやらないことをやろう」と深夜2時までの営業を決めた。さらに午前零時を過ぎたら全品2割引きとした。
すると、午前零時頃にお客が殺到し、客が引いたのは午前3時を過ぎていた。
これらは「現地の慣習や常識にとわれない」という成功例になった。
しかし、逆に考えると、こういうふうにして外資系のサービス産業がどんどん入ってきて、その土地の食文化や古き良き伝統を壊していくのではないかと思った。
ちなみに、2010年の調査で20歳以上の中国人の糖尿病有病率がついにアメリカ人のそれを上回ったそうだ。
日本人もかつては伝統行事を大切にしていた。健康的な和食は先人の知恵の宝庫だった。これらが欧米のライフスタイルになっていくにつれて次第に失われていった。この傾向は今後も留まることを知らぬであろうか。