水谷もりひとブログ

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一本の線

一本一本の線に人生を懸けた画家、上村松園。
女性として初めて文化勲章を受章した人です。
まだ若いころ、有名な師匠のもとに弟子入りして、ほかの弟子たちと一緒に絵を描いていました。
ほかの弟子たちは思い思いに絵を描いているのに、松園は違いました。
来る日も来る日も線を引き続けていたのです。
絵ではなく、線を。
周りの弟子たちも、師匠の画家も、不思議に思っていました。

後に日本画家の平山郁夫氏は、松園のことをこう言っています。
「線を描くことは基礎中の基礎だけに、なおのこと、本人が試行錯誤を繰り返すべきなのだ。何回も何回も線を引きながら自分の線をつかまえていくのである。
そうやって繰り返していくうちに、その人の特徴とか個性が見えてくる。それはいわば『芸術的自我』とも呼べるもので、その自我の芽生えが大切です」

ハイ、よく意味が分かりませんが、上村松園のたとえば「楊貴妃」という屏風絵には圧倒されます。
高さ1メートルを超える簾(すだれ)が描かれています。
よーーーーーーく見ると、これが一本一本の線で描かれているのです。
まるで本物の簾がそこに掛かっているように見えます。

「本物」というのは、嘘偽りがないということです。
一本一本の線を何年も何年も引きながら、嘘偽りのない線を描く腕になっていたのでしょう。

生きているうちに、松園の「楊貴妃」を知ることができてよかった、と思いました。
そして、いつか本物を見てみたいと思いました。

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