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溢れでたやさしさ

突然「詩を書いてください。テーマは何でもいいです」と言われても
普通、ちょっと躊躇してしまうだろう。

「何でもいい」と言われると、かえって困ってしまうのだ。

そこで「たとえば好きな色について書いてください」と言われると、
何となく書けたりする。

ある少年は「金色」というタイトルで書いた。

金色は
空にちりばめられた星
金色は
夜 つばさをひろげ はばたくツル
金色は
高くひびく 鈴の音
ぼくは金色が いちばん好きだ

作家の寮美千子さんはいう。
「なんとみずみずしい豊かな感受性なのだろう。
目に見える金色だけではなく
空を飛ぶ鶴や鈴の音を金色と表現している。
心の中にこんなにも美しく静謐(せいひつ)なイメージを
この子は抱いているのか」


ある子は「黒」というタイトルだった。

ぼくは黒が好きです
男っぽくて カッコイイ色だと思います
黒は不思議な色です
人に見つからない色
目に見えない闇の色
少しさみしい色だな思いました
だけど星空の黒はきれいで さみしくない色です

寮さんはいう。
「“人に見つからない闇の色”を
この子は“さみしい色”だと感じている。
人生の中できっとそんな思いをしてきたのだろう。
物かげに隠れて怯えて・・・。
けれどこの子には永遠の広がりを持つ星空を求める気持ちがある。
星空の“黒”は“さみしくない色”だという。
“黒”という色についてこんなに重層的な響きを抱いているのだ」


寮さんは少年刑務所で詩の授業をしていた。
殺人や性犯罪、薬物使用など重大事件を起こして
実刑判決を受けた未成年の子たちに。

たった一行の詩を書いた子もいた。タイトルは「くも」

空が青いから白をえらんだのです


彼は薬物中毒で収監されていた。
頭には父親から金属バットで殴られた傷跡があった。
ろれつもはっきりしない語り口。
しかも早口。
小さくて何を言っているのか聞き取れない。

そんな声で自作の詩を朗読した後、彼は言った。

「ぼくのお母さんは今年で七回忌です。
お母さんは身体が弱かった。
お父さんはいつもお母さんを殴っていました。
ぼくは小さかったのでお母さんを守ることができませんでした。
お母さんは亡くなる前、病院でぼくにこう言いました。
“つらくなったら空を見てね。お母さんはそこにいるから”
ぼくはお母さんのことを思って、
お母さんの気持ちになって
この詩を書きました」

寮さんは必死で涙を堪えながら話を聞いた。

すると別の子が手を上げてこう言った。
「ぼくはお母さんを知りません。でも
ぼくもこの詩を読んで空を見上げたら、
お母さんに会えるような気がしてきました」

そう言って彼は泣き崩れた。
寮さんも、刑務所の教官も、もう涙を堪えることができなかった。

そしてこの子たちは、寮さんの詩の授業、絵本の授業でみるみる変わっていったそうです。

寮美千子著『あふれでたのはやさしさだった』(西日本出版社)

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