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「否定しない」「注意しない」「指導しない」

寮美千子著『あふれでたのはやさしさだった』(西日本出版社)

平成18年のある日のこと。
作家の寮美千子さんは、奈良少年刑務所で開催されていた矯正展に出掛けた。
そこで1枚の美しい水彩画に魅せられた。

一つひとつの色が微妙に違う。「几帳面すぎる。こんなに細かい神経の持ち主だったら、世間にいた時、さぞかし苦しかったのではないか」と思った。


「振り返りまた振り返る遠花火」という俳句に胸が締めつけられた。 
「なんと端正な、抒情的な句なんだろう。この子は鉄格子の窓から花火を見たのだろうか」と寮さんは思った。

その時、教官が声を掛けてきた。
「ここにいる子たちはおとなしかったり、引っ込み思案な子たちがほとんどです」

この出会いが寮さんの人生を変えた。

翌年の平成19年7月、「絵本や詩を使った教室を開きたい。ぜひ講師に」と、奈良少年刑務所から寮さんに電話があった。

実はその年の6月、100年ぶりに監獄法が改正されたのだと言う。
それまでは社会復帰後のためにいろいろな技術を教えてきたが、
法改正により職業訓練が困難な軽度知的障がい者や精神疾患のある受刑者のために
情緒的な教育を施すことができるようになった。その講師を依頼されたのだった。

少年刑務所は、保護施設の少年院と違い、
殺人や性犯罪など、刑事事件で実刑判決を受けた未成年の子たちが収監されている。

寮さんは最初の授業で
アイヌ民族の親子を題材にした絵本
『おおかみのこがはしってきて』(ロクリン社)を使った。

受講生の片方が父親役、片方が子ども役になって朗読劇をする。
子どもが父親に質問する。父親はどんなことを聞かれてもちゃんと優しく答えてくれる。

全員これをやった。全員が最後まで読めた喜びを味わった。
「たったこれだけのこと」で、少年たちは自信を獲得したようだった。
寮さんは「かすかな自己肯定感が芽生えた」と確信した。

 
彼らは幼少期から、何を言っても受け止めてもらえない家庭で育った。
常に大人から否定され、叱責され、攻撃されてきたという。

だから教官たちは、「否定しない」「注意しない」「指導しない」
全承認の場を作っていた。
否定されない環境の中で初めて心を開き、少年たちは自ら成長していくという。

寮さんのオンライン講演会は今週末。
ぜひ直接生の声でお聞きください。

https://miya-chu.jp/topics/?itemid=3757