文章極意3
38年間、新聞記者をしていた男性と出会った。大学を出て、22歳で大手日刊紙に入社し、九州管内の支社を転々をしたそうだ。
所属したのは社会部。
だから事件、事故を取材して記事にしていた。
その仕事に人生を捧げてきた。
現役の時は楽しくて仕方がなかった。
やりがいのある仕事だと思っていたという。
現在90歳。
振り返ってみると、「何も残っていない」と話された。
事件の記事を書いても、
しばらくするとみんなそんな事件があったことなど忘れてしまう。
高校生が自殺した記事を書いても自殺が減るわけでもない。
飲酒運転で逮捕の記事を書いても飲酒運転が減るわけでもない。
それを読んだ人が喜ぶわけでもない。
警察の人とのお付き合いが一番多かったが、
みんな3年くらいで異動になって、お付き合いは切れる。
夏の野の 茂みに咲ける 姫百合の 知らえぬ恋は 苦しきものぞ
万葉集の歌である。
今から1300年以上も前の人の書いた文章が、こうして残っている。
しかもたった31文字で自分の思いを綴っている。
「知らえぬ恋」とは人には言えない秘密の恋、あるいは
片思いで、未だ相手に届かぬ思いなのだとか。
いずれにしても誰かを思いつつ、届かない胸の苦しさを、
繁みの中でひっそりと咲く姫百合の花にたとえている。
感情なのだろう。
文章を書いた人の思いと読む人の感情がかすかに起こす摩擦。
その摩擦が、後世に語り継がれるのだ。
新聞情報に「情」を刷り込むべく日本講演新聞に文章を書いて
毎週月曜日に発行。
でも、8月29日号は第5月曜日のため、休刊。あしからず。