くるみの談話室 2796号(2019/07/08)
手つかずだから自然なのですね
本紙代表 松田くるみ
北海道鶴居村に住むネイチャーガイド・安藤誠さんの講演記事が本紙に掲載されたのは2018年5月のことでした。安藤さん撮影の野生動物の写真があまりにも美しくて、初めてカラーで掲載しました。その記事を読んで、全国の読者さんが続々と鶴居村を訪れたそうです。
先月、京都の読者さんたちが鶴居村ツアーを企画していたので私もそれに便乗しました。
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1日目、資格を持つガイドが同行しないと入れない特別保護区・釧路湿原のキラコタン岬の森に入りました。そこで湿原の主役、「ミズナラ」の生態を知りました。秋にどんぐりの実をつける樹木です。
戦後、経済のために大量のミズナラが伐採されました。ミズナラがなくなったことで、山肌に陽が差すようになり、好光性の白樺がぐんぐん育っていきました。数十年後、大きくなった白樺の枝葉の陰で、今度は嫌光性のミズナラが再び育ち始めました。
釧路湿原の白樺の寿命は70年前後とのこと。それくらい経つと、ミズナラも一人前に大きくなり、白樺はそれを見届けるかのように自ら枯れていくそうです。そして、湿原の森の主役は今、再びミズナラに代わっていこうとしていました。その半径30キロ、人間がいない湿原に数頭の鹿やタンチョウのつがいを遠くに観ました。
そして安藤さんのガイドの醍醐味は、夜の「星空カヌー」です。2日目、阿寒湖近くの湖で私たちはそれを体験しました。
暗闇の湖上を進む中、唯一オレンジに光る街灯のように見えたのは満月でした。夜の静寂の中ではこの明るさがちょうどいいと思いました。
どこからかフクロウの鳴き声が聞こえました。「伝説の妖怪」ともいわれる鵺の鳴き声は安藤さんが教えてくれなかったら気が付きませんでした。「翌日になると、あれは夢だったのかと思ってしまうほどの時間ですよ」と安藤さん。確かに自分が生きているのか死んでいるのか分からなくなるほど幻想的な時間でした。
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私が所属しているNPO法人「日本熊森協会」の森山まり子前会長が、安藤さんの撮影した兄妹熊の写真を見て、すぐ鶴居村に行き、安藤さんに日本熊森協会の顧問をお願いされました。
安藤さんもかねてから「熊のために何か役に立ちたい」と思っていたので、快諾されました。
以前、森山さんが「日本に北海道があってよかった。他のところは人間の手が入って野生動物が生息しにくくなっていますから」と話されていました。確かに「美しい自然」といっても、たいてい人間の手が入っているのが普通ではないでしょうか。
人間など意にも介さない野生動物を遠くから眺めながら、釧路湿原で手つかずの本当の自然に出会えました。
(本紙代表/松田くるみ)
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2796号