くるみの談話室 2661号(2016/08/22)
制作は時代との格闘
本紙代表 松田くるみ
みやざき中央新聞は、法人21期の決算も終わり、7月から22期を迎えました。先日、長崎読者会を開催しましたが、読者会でよく「毎週よくあのような社説が書けますね?」と質問されます。そういう時、私は「楽しみながら必死で書いていますから」と答えています。
編集長は、社説を1本書き上げても、また次の週には新しい社説を書かないといけません。そのためいつも本を読み、車の運転や歩いているときは、いつもオーディオブックで何か聞いています。
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「創る」というのは大変な作業ですね。最近、スタジオジブリ代表・鈴木敏夫著『ジブリの仲間たち』を読み、一つの作品を創り上げることの凄まじさを垣間見ました。
勧善懲悪のドラマや映画などは観た後すっきりするものですが、宮崎駿監督作品は、観た後に何かしら宿題をもらったような「もやもや感」がありました。その本を読んで、その意味が分かった気がしました。
たとえば、私の好きな『千と千尋の神隠し』は、最初はトンネルの向こうの不思議な世界に迷い込んだ「千尋」が、「ハク」という少年と協力して、その町を支配する「湯婆婆(ゆばーば)」、そしてその姉の「銭婆(ぜにーば)」と戦う過程で、2人の間に愛が芽生えるというラブストーリーだったそうです。
ところが、何か違うと感じた鈴木さんの意見を受けて、宮崎監督は構想を変え、ほんのわずかな登場シーンしかなかった「カオナシ」を全面に出すことにしました。
「湯屋」という温泉宿に入ってきて、大暴れする「カオナシ」は、人間の心の底にある闇、心理学でいう「無意識」を象徴しています。それが人間の欲望を飲み込みながら肥大化していくのです。
しかし、「千尋」だけは「カオナシ」の誘惑に乗りません。物語は、「千尋」が失った自分の名前と、豚にされた両親を取り戻すために働き、成長していく話に変わりました。
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「制作は時代との格闘だ」という鈴木さん。「千尋」と「ハク」のラブストーリーでも、それなりのヒット作になっていたでしょう。しかし、「千尋とカオナシの物語」という新しい展開にしたことで、それが今の時代に受け容れられ、空前の国民的大ヒットに繋がったというのです。
バブル崩壊以降、映画はテーマを失っていきました。戦後から高度成長期までは「貧しさの克服」や「恋愛」をテーマにすればヒットしたのですが、今の時代は人々の求めるものが変わってきたのです。
「映画はストーリーを売るんじゃない。哲学を売るんだ」。鈴木さんは「カオナシ」を前面に出し、難しいテーマを娯楽的に表現してPRしました。
みやざき中央新聞もこの「時代」と格闘しながら創っていきます。今期もどうぞよろしくお願いします。
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2661号