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くるみの談話室 2374号(2010/07/19)
利他と利己の痛みを

本紙代表 松田くるみ
 先週、経営の勉強会に参加しました。宮崎市にある江坂設備工業㈱の鳥山浩会長が世話人をやっている会で、16年も続いています。

 162回目となった今回は稲盛和夫氏の「経営とこころ」というCDをみんなで聴きました。テーマは「利他の心」でした。

 「利己を抑えれば、利他は自然と出てきます。言い換えると、自分を抑えてみれば、自動的に他人を思いやれる利他の心が出てきます」というお話でした。

 自分一人のことだけを考えていれば「利己(エゴ)」ですが、家族のことを考えるようになれば「利他」になります。でも、家族のことだけ考えるようになれば、それが「利己」になります。考えることが広くなればなるほど、「利己」から「利他」になります。「国の為」と言えば「利他」ですが、「日本の為だけ」と考えれば、それもまた「利己」になります。

◎          ◎


 今は京セラの名誉会長ですが、1959年に300万円で会社を創業した1年後、こんなことがあったそうです。20人の社員が血判状を出して、稲盛さんに、「給料を毎年上げることと、毎年ボーナスを出すことを約束してくれ」と交渉してきたというのです。

 当時はまだ会社を興したばかりです。自分の親兄弟の面倒すら見れていない現状で、どうして従業員の将来まで保証できるのか、と悩んだそうです。

 自分の小さな市営住宅に従業員を呼んで三日三晩、話し合いました。

 そして、「従業員の人生に責任を持つという覚悟がないといけない。従業員が幸福になれる会社をつくろう」と腹をくくったとき、「これがお釈迦様のいう利他の心の実践なんだ」と稲盛さんは悟ったそうです。

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 さて、終息が近い口蹄疫ですが、先週、山田農水相と知事のやりとりが物議を醸しました。「法律に基づいて殺処分しろ」と主張する国に対して、種牛農家の「県に牛を無償提供する。きっと宮崎の畜産業の役に立つ」という熱い思いを受け止めて、種牛6頭の命乞いをした県。

 宮崎の畜産業のことを考えると、種牛農家の思いも知事の思いも「利他」です。しかし、県全体の経済や国の危機管理の観点から考えたら「利己」になります。

 最終的に、より大きな「利他」を考えて知事も種牛農家の方も涙を飲みました。もちろん、今回犠牲になったすべての農家の方も同じ思いです。

 家庭、地域、県、国、それぞれの段階で「利己」を超えて、「利他」の立場に立つとき、痛みを共に分かち合えるトップであって欲しいと心から思いました。
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