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くるみの談話室 2454号(2012/04/02)
演劇『29万の雫』

本紙代表 松田くるみ
 先週、『29万の雫』というお芝居を観ました。「29万」という数は一昨年の口蹄疫で殺処分された家畜の数です。 

 口蹄疫は、牛や豚を死に至らしめるような怖い病気ではありません。感染しても治る病気ですし、
その肉を食べても人間に害があるわけでもありません。ただ感染力が強いということで、日本の法律では非情にも、ある一定の範囲内にいる家畜はすべて殺処分しなければならないと定めています。2年前、宮崎県民が経験したあの悲劇を忘れてはいけないと、この度、劇団ゼロQが舞台化しました。

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 脚本は、劇団員が直接畜産農家や殺処分に関わった人たち約80人の言葉をセリフにして作られました。

 地元町長の言葉。「口蹄疫が出たから防除とか通行止とかいろいろやっていったんです。だけど、
町は県に、県は国に相談せにゃいかんとですよ。すぐやりたいのに出来ない。時間がかかるんですよ」

 ある獣医師の言葉。「…消毒薬を注射するんです。2分か3分で死にます。中にはお腹が大きい牛もいて、親は倒れて死ぬんだけど、お腹が動いているんですよ。子牛が蹴っているんだわ。あれは一番苦しかった。かわいそうだった。泣きながら注射してましたよ」

 「50㍍くらい掘った穴に死んだ牛を埋却するんだけど、薬が少なくてまだ生きてる牛がいるんです。生き埋めにするわけにはいかんからって、薬を持ってユンボに乗って降ろしてもらって…そういうことが3回あった。…作業が終わってから10日間くらいは牛が夢に出てきたよ」

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 口蹄疫の最初の発生農場と疑われた水牛農家の男性の言葉。「…僕、自殺したと噂になってたんですよ。…あのときは精神が神の世界にシフトしたみたいでした。死刑判決を受けた冤罪の人って、こういう感覚になると思いますよ。殺処分は4月25日でした。子牛も合わせると42頭。でも思い出せない。多分泣いちゃうから。思い出さないように自分で回路を切断しているというか、その回路は繋げないんです。分かりますか?」

 70歳の畜産農家の女性。「埋却されて49日近くなったとき、神主さんに頼んでお祓いしてもらったんです。いくら畜生でもアレがあるっちゃから。お祓い中に『モォー』って声が…。この辺には一頭も牛はおらんのに。『あら、子牛の声やが…』と言うたら、隣の奥さんも『私も聞こえた』って」

 とても生々しい言葉をたくさん聞きました。先週末の3回公演でした。もっとたくさんの人に観て欲しいお芝居です。河野県知事もブログで「再演をしてもっとたくさんの人に観てほしい」と書いていました。再演が決まったらまた紙面でご案内します。
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